たかだか日に一度や二度の残飯の投与にあずからんがために、友を売り、妻を離別し、おのれの身ひとつ、家の軒下に横たえ、忠義顔して、かつての友に吠え、兄弟、父母をも、けろりと忘却し、ただひたすらに飼主の顔色を伺い、阿諛あゆ追従ついしょうてんとして恥じず、ぶたれても、きゃんといい尻尾しっぽまいて閉口してみせて、家人を笑わせ、その精神の卑劣、醜怪、犬畜生とはよくもいった
彼はいつか自分は犬に噛まれるに違いないと確信している。
私は、とにかく、犬に出逢うと、満面に微笑を湛たたえて、いささかも害心のないことを示すことにした。噛まれたくないために野良犬に笑顔を見せる太宰治。ところが、犬に好かれてしまい、ついに子犬が後ろからついてきて、飼うことになり、嫌いだと言いながら、ポチと名付けて居ないと捜したり、シェパードに飛びかかったら蒼くなったり、「あれ?本当に犬が嫌いなの?」と思った。