空の鳥

主に飼い猫+野鳥を撮って、紹介しています。

森鴎外の茄子の食べ方。「鴎外の思い出」青空文庫より

茄子はお好きだったようで、どんなにしたのでも召上りますが、炭火のおこった上に、後先を切って塩を塗ったのを皮のままで置き、気を附けて裏返します。箸を刺して見て、柔かに通るようになりますと、水を入れて傍に置いた器に取ります。程よく焼けて焦げた皮をそっくり剥ぎ、狐色になった中身の雫を切って、花鰹をたっぷりかけるのですが、その鰹節や醤油は上品を選ぶのでした。 大きくて見事な茄子のある時は亀の甲焼にします。これは巾著などというのでは出来ません。まず縦に二つ割にして、中身に縦横格子形に筋をつけ、なるべく底を疵附けぬようにして、そこへ好い油を少し引き、網を乗せた炭火にかけ、煮立ち始めると、蒂を左の指で持って、箸で廻りからそろそろ剥します。皮を破らぬようにするので、割合に早く煮えるものです。そこへ花鰹、醤油、味醂などを順々に静かに注いで仕上げます。そっくり皿に取りますが、それを剥しながら食べるのがお好きでした。若い人たちは、お舟だといって皮をも食べます。
小金井貴美子著「鴎外の思い出」青空文庫より