空の鳥

主に飼い猫+野鳥を撮って、紹介しています。

有島武夫「或る女」

大正時代の初めに書かれた文学作品だが、今になっても色あせない非常に洗練された文章だ。
あの時代のよく似た小説はあるが、比べてみてもこれほどよく人物描写の書けた作品はないと思う。
主人公の早月葉子には実在のモデルがあり、彼女そっくりの経歴がある。
ひどい話だなと思う。
ただエンディングは主人公の死だが、モデルになった実在の人物は71歳まで生きた。
どれほどこの本のせいでずっと苦しめられたろうと思う。
だが作品はすばらしく書けている。

後になって有島武夫の日記で実在の人物に会ったという事がわかっている。きっと作者は彼女が非常に魅力的だったので意欲的に執筆したんだろう。

有島武夫は札幌農学校卒業し、洗礼を受けてクリスチャンとなった。でもアメリカ留学で差別をされたりしてキリスト教に疑問を持ってしまって教会に行くのをやめた。
主人公葉子もそういう設定にしているが、実在のモデルになった人物は死ぬまでクリスチャンだった。日曜学校の先生をしていたそうだ。それに引き換え有島武夫の最期は女と心中。
キリスト教はアメリカの宗教ではないし、信仰を捨ててしまうのは破滅につながるのじゃないかと思った。