母は子供の頃ピアノを習いたかったが、祖母は「あんたは手が小さいから。」ととりあってくれず、踊りを習わせた。
母の姉も妹もピアノを習い、うち一人は音大にまで行った。
母は踊りは好きでなかったが、嫌々習っていた。
発表会では、黒子に歌舞伎座の人を使い、着物を一瞬で引っ張って着替えさせた。
先生へのお礼から会場代、着物、カツラ、黒子のお祝儀、さらに発表会に来てくれたお客さんへ、お弁当、飴、母の芸名入りの手ぬぐいまで配ったので、ものすごくお金がかかっている。
ピアノの方が余程節約出来たのになぁと思った。
小さい頃、
「お母さん、いざとなったら芸者になれるね。」
と言った事がある。母の答えは
「ヤトナやったらなれるかも」
「ヤトナって?」
「あらえっさっさ〜って踊るやつ。」